公楽キネマの銀幕のこと(1) [村山籌子]

1.百年に一度の恐慌

 昨年来の世界経済危機が今年もその影を落としている。この「経済危機」なる呼び方、英語では「Economic crisis」。この訳文はついこの間までは「経済恐慌」だったはず。今も英語では同じ呼び方のままだ。同じ呼び方ということは、その本質は同じということに他ならず、現在はまさに「恐慌」のただ中にあるといっていいだろう。2008年からの世界恐慌、それはアメリカのサブプライムローン問題に端を発した。百年に一度あるかないかの規模の大不況だという。やはり百年前の「大恐慌」もアメリカ発であり、1929(昭和4)年10月に始まった大恐慌の波は、日本にも波及して、全ての工業分野にまで影響は及び、空前の失業者を生み出したのであった。それは農村にまで拡大し、農産物の価格の大暴落を引き起こし、農家を極端な窮乏に追い込んだのであった。様々な意味で時代の転換点となった1930(昭和5)年は、こうした大不況による生活苦をはねかえそうとして引きおこされた数多くのストライキによって幕をあけることになった。当然、小作争議も各所でおきた。そこから2年遡る1928(昭和3)年3月、普通選挙の施行に時を同じくして、労働組合や労農党に政府は弾圧を加え、ストライキへの破壊行動をも行なったのであった。そんな状況の中、1930(昭和5)年のメーデーが近づく。「メーデーに参加する者は武装せよ」という命令がどこからともなく出ていると、ささやかれていた。2月26日の共産党の全国的な大検挙があったことも引金になったようだ。村山知義の『演劇的自叙伝3 1926~30』(東邦出版社)には、村山の初めての検挙が以下のように記述されている。

五月二十一日の朝、私は家にやって来た顔見知りの特高係り三人の来訪を受け、「ちょっと署まで来て貰いたい」といわれた。三人が来て、署までといわれたので、これは少し長くなるかな、と思った。あとから様子を見に来てくれ、と妻にいい置いて、出て行った。

村山が連行されたのは、高田馬場駅にほど近い戸塚署だった。

私は大震災で引っ張られた時以来、家からこの署へ連れて行かれる時はいつも、小滝橋を渡り、高田馬場への大通りを行かず、右の小路から戸山ヶ原の雑木林の間を抜けて、小さな無人踏切を越えて、裏の方から署へ連行されるのであった。

村山知義「演劇的自叙伝3」東邦出版社昭和49年.jpg
村山知義『演劇的自叙伝3』の前扉
村山知義の三角の家写真「アサヒグラフ」1924年3月19日号.jpg
『アサヒグラフ』1924年3月19日号に掲載された村山知義の三角の家

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やまがたん

不景気、いやであります・・・・
ご訪問ありがとうございます^^
( ゚∀゚)o彡°ポチっと☆オウエンオウエン☆
by やまがたん (2009-08-25 07:32) 

青の風画

今は大きな時代の変換期ですね。
そんな中でサブプライムローンの
破綻があった気がします。
時代が物事を決めていく、そんな風にも
思います。
by 青の風画 (2009-08-25 12:50) 

ナカムラ

やまがたん様:コメントありがとうございました。本当に、不景気はいやですね。また同時に時代が動く転機になる点でも不気味です。
by ナカムラ (2009-08-25 15:02) 

ナカムラ

青の風画様:コメントありがとうございました。私も大きな転換点にあると感じています。もちろん、危機感も感じていますが、同時にオバマ大統領が核軍縮の宣言を行ったようにチャンスにもできるのかもしれません。できれば、ネガティブではない現実を迎えられるようにしたいと思います。今後とも宜しくお願いします。
by ナカムラ (2009-08-25 15:06) 

駅員3

明るい兆しが見えるような、見えないような…
経済恐慌に輪をかけるように、新型インフルエンザの流行[あせあせ(飛び散る汗)]
早く回復して欲しいものです。
by 駅員3 (2009-08-25 19:56) 

ナカムラ

駅員3様:コメントありがとうございます。経済的には最悪の状況からは抜け出したと考えます。ただし、テレビでいっていたような経済危機からではなく、大変危険であった経済恐慌から脱出が始まったということです。新型インフルと異常気象の方が深刻かもしれませんね・・・。
by ナカムラ (2009-08-25 22:17) 

なぎ猫

世界恐慌の時代、生まれるだいぶ前の話故、
実感としては分らないのですが、恐慌というからには
世界的に恐ろしく誰もが苦難を強いられた時代なのかな、
と想像してます。実際は知らないけど。
しかし、百年に一度の不況という昨今、
本当に誰もが苦しんでるのか?なんか経済格差だけが
拡大してる気がする。すんません、政治経済うといので
あってるかどうか分らないんだけど。
by なぎ猫 (2009-08-25 23:00) 

ナカムラ

なぎ猫様:コメントありがとうございます。当時も現在と同様で、バブルだったアメリカ(パリのアメリカ人といわれていました)のバブルがはじけて、きっかけはGMの株の下落でした。ね、今と似ているでしょう。株の下落はとまらず、世界同時に不況に入ったのでした。ところが、当時は国家で統制している連邦銀行などの力が弱かったので、落ちるだけ落ちました。破産が続出、その影響は日本にも飛び火しました。銀行が倒産、米騒動があったのもこうした時期でした。こうした不況が失業者を生み、なかでも農村が疲弊してしまったので、都市から農村に労働力を戻すこともできず、農村出身の下士官を中心とした軍事クーデターを生んでしまいます。一方で、失業を背景に大きな労働争議がおこり、その弾圧と、時代は中国への植民地政策にいたってしまいます。この大陸進出が連合国との対立を深めたのですから、恐慌が日本を戦争に導いた、といっていいのかもしれません。世界はこの恐慌の脱出に長い年月がかかってしまい、ヨーロッパでも戦火を生んでしまいました。貧富の差だけを比較すると百年前の方が格差は大きかったでしょうね。でも、新自由主義とよばれるブッシュ前大統領のブレーンの政策は格差を大きくすることでした。AIGの社長の報酬なんて聞きたくないでしょう?でも、あれが現実なのです。おかしいでしょう。恐慌では多くの人が苦しみますが、断言できるのは弱者ほど苦しいです。幸い、今回の恐慌は出口が見えています。かなり明るいです。未来を信じて進む時だと思います。今は。
by ナカムラ (2009-08-26 01:33) 

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