鳥取と東京・落合の風景と(5) [尾崎翠]

5.落合町山川記

林芙美子が書いた「落合町山川記」には尾崎翠と松下文子が住んでいた上落合850番地のことが書かれている。まずはそこから見てゆきたい。

木口のいい家で、近所が大変にぎやかであった。二階の障子を開けると、川添いに合歓の花が咲いていて川の水が遠くまで見えた。

その上落合から目白寄りの丘の上が、おかしいことに下落合と云って、文化住宅が沢山並んでいた。この下落合と上落合の間を、落合川が流れているのだが、(本当は妙正寺川と云うのかも知れぬ)この川添いにはまるで並木のように合歓の木が多い。五月頃になると、呆んやりした薄紅の花が房々と咲いて、色々な小鳥が、堰の横の小さい島になった土の上に飛んで来る。

庭の雑草をむしり、垣根をとり払って鳳仙花や雁来紅などを植えた。庭が川でつきてしまうところに大きな榎があるので、その下が薄い日蔭になりなかなか趣があった。

林芙美子は「遠き古里の山川を/思ひ出す心地するなり」の歌をくちずさみながら、引越しのかたづけを行ったという。つまり彼女も故郷の山川を落合の風景によって思い出したのがわかる。そうした思いをおこさせるものが落合にはあったのだろう。私が杉並から越してきた頃、まだ川沿いには合歓の木があった。しかし、現在合歓の木はほとんど伐られてしまっている。また、桐の木も川沿いにあったのだが最近は見ない。他の木を含めて川沿いの木がどんどん伐られてしまった。落合は新宿区内で最も緑が消滅している地域というが、そのため面影はどんどん消えているようだ。

昭和8年5月「家の光」グラフページの目白文化村.jpg
  『家の光』昭和8年5月号に掲載された目白文化村の様子
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mayasophia

お越しいただき、またコメントまでありがとうございます!
おっしゃられてた本、今度訪れた際に探してみます!
by mayasophia (2011-04-26 17:24) 

ナカムラ

mayasophiaさま:こちらこそコメントをありがとうございます。恵文社良いスペースですよね。版画家の山下陽子さんに紹介いただきました。
by ナカムラ (2011-04-27 00:12) 

アヨアン・イゴカー

この写真で見ると、この地域は随分洒落ていたのですね。
by アヨアン・イゴカー (2011-05-01 01:01) 

ナカムラ

アヨアン・イゴカーさま:そうなんです。下落合は目白文化村でおしゃれな地域でした。今は山手通りでずたずたです。
by ナカムラ (2011-05-01 11:51) 

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