竹中英太郎周辺の人間関係と疑問など(4) [竹中英太郎]

4.満州と二・二六事件

 石原莞爾の満蒙独立論をたてに浅原健三が満州協和会を動かし、これによる新しい社会、政体を目指したのだと考える。これに竹中英太郎は何らかの協力を果たしたのではないだろうか。その痕跡が『満州美人絵はがき』であると思うのだ。石原は東條英樹を中心とする統制派にも皇道派にも属していなかった。あえて言えば満州派であった。満州国という日本にも属さない独立国家の自立こそが石原の理想だった。しかし、時代はそれを許さない。陸軍は満州国を実質支配する関東軍参謀長に東條英樹を任じた。東條英樹は憲兵隊を支配・影響下においており、関東大震災の際に大杉栄と伊藤野枝を虐殺した甘粕正彦を満州に呼んだ。東條・甘粕ラインは石原の影響を排除してゆく。またそれが陸軍の意向だったのだろう。余談であるが、ナップ初代委員長の橋浦泰雄は震災直後の足助素一の叢文閣で大杉栄とばったり出会ったという。そして意気投合したのだった。大杉と伊藤は落合火葬場で荼毘にふされた。小山勝清も危なかったが難を逃れた。落合火葬場は小山の家から目と鼻の先であった。小山勝清のところにもよく出入りしていた北一輝はどう思ったろうか。おそらくは竹中英太郎も北一輝とは会うことがあったろう。
 ところで、私は二・二六事件でなぜ竹中英太郎が関係者として連行、拘置されたのかがわからない。北一輝との関連だろうか、それとも決起軍人とのつながりがあったのだろうか。二・二六事件は1936(昭和11)年におきた。裏には陸軍の統制派と皇道派の争いがあった。また一方では、金融恐慌、世界恐慌、農村不況が連続して日本を襲い、不景気によって完全に疲弊した農村と地方を救うべく無策の政府を倒すことによって、正そうとした純粋な正義意識もあった(もちろん、その行動は正しくない)。そうした下士官層の意識を利用した者があったのかもしれない。戒厳令が発布され、情報統制が敷かれた。一般市民は何が起きているのかわからなかったという。戒厳司令部参謀として制圧の指揮をとったのは参謀本部作戦課長であった石原莞爾であった。統制派に属さぬ石原ですら何度か銃をつきつけられたようだ。首謀者の一人として軍人ではない北一輝が検挙、処刑されたが、北は本当に首謀者の一人だったのだろうか。よくはわからないまま死刑執行されてしまった。前述したように軍部と右翼思想家の関係では大川周明に軍はよっており、北との対立があった。竹中英太郎も事件関係者として取り調べられている。そして、これも不思議なことであるが釈放されると妻子を残して単身満州に発ってしまうのだ。これは何を意味するのだろうか。1937(昭和12)年、日中戦争が始まってしまう。その時、石原は参謀本部作戦部長であった。一方、竹中英太郎は月刊満州社の東京支社長として月刊満州日本版を刊行するかたわら何らかの活動を行っていたという。証拠があるはずもないし、竹中英太郎も浅原健三も何も残していないが、浅原の軍内部からの社会主義化、戦争回避の工作を満州を中心として行っていたのではないか、と私は考えている。そして、浅原にとっての陸軍内部の最大の協力者が石原莞爾だったのではないだろうか。昭和12年9月、日中戦争前線の武藤章参謀と対立した石原は参謀本部から左遷され、関東軍参謀副長となる。関東軍参謀長が東條英樹、その右腕が甘粕正彦でなければ、何らか別の道があったかもしれないと考えてしまうのは私だけだろうか。妥協できない石原は東條と真正面から対立してしまった。翌1938(昭和13)年、石原莞爾は参謀副長を罷免される。関東軍内部で東條英樹の統制派に満州独立をめざす石原・浅原ラインが敗れたのだった。この結果、浅原健三には治安維持法違反嫌疑がかかり、逮捕される。しかし、なぜか起訴はされなかった。板垣征四郎にまで類が及ぶ可能性があって追及しなかったとも言われている。浅原は非公式に国外追放になり、上海に行く。不思議なことだが上海で浅原健三は大金持ちになっている。これはどういうことだろうか。おそらくは浅原と思いを同じくして満州で活動を行っていた竹中英太郎は後盾を失う。浅原ばかりではなく石原莞爾までも。結果として竹中英太郎はほとんど強制送還に近い形で帰国した。そして、石原莞爾は留守第16師団長とされるが、その後、予備役となり大学で教える立場になる。石原は社会主義的な改革を唱えたというから、もし浅原が行った工作が直接に作用したのだとすれば、凄いオルグであったのかもしれない。

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なぎ猫

甘粕さんって大杉栄殺害した人なんですか。映画”ラストエンペラー”で坂本龍一が演じていたことを思い出しました。
by なぎ猫 (2011-05-12 21:23) 

ナカムラ

なぎ猫さま:そうなんです。坂本龍一が演じたのが甘粕正彦です。大杉栄の殺害の際は憲兵でした。罪に問われ服役、恩赦のあとは上海にいました。東條とは親しく、満州に呼ばれます。満州映画社の社長として君臨しました。李香蘭も満州映画社所属の女優です。
by ナカムラ (2011-05-13 09:20) 

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