ときたまメールアート(3) [メールアート]

 土岐さんのメールボックスに最初に届いたのはダダカンこと糸井貫二さんからのコラボハガキだった。これには驚いたようだ。大阪万博でのダダカンの活躍は多くの方の知るところであり、そのダダカンからの返信がまっさきに届いたのだ。まるで万博で裸の姿で追いかける警備員をひきつれて走ったように先頭をきって走ってきたのである。さすがは糸井さん、「よっ、ダダカン!」てな具合である。土岐さんはダダカンと連絡をとり、なんとonときたまのビデオ映像を撮影してきたのであった。動いているダダカンがテレビの中にいた。八十九歳の逆立ち姿がそこにはあった。肉体がラジカルだった。  その後も続々とハガキは届いた。〆切とした三月末までには三○ヶ国から三二一人の参加があった。これはどうしてたいしたものである。日本国内で開催されたメールアート展として最大級の規模になったのではないかと思う。イタリアのルッジェロ・マッジ、エミリオ・モランディ、スペインのアントニ・ミロ、イギリスのアラン・ターナー、オランダのコ・デ・ヨンク、ベルギーのリュック・フィーレンス、アメリカのジョン・ヘルド・ジュニア、ジョン・ベネット、ウルグアイのクレメンテ・パディン、オーストラリアのデビット・デラフィオーラなどベテラン勢も揃った。カッセル・ドキュメンタ参加作家のユルゲン・オルブリッヒ(ドイツ)やフルクサスのメンバーの作曲家・塩見允枝子さんにも参加いただいた。日本からの参加者はメールアートジャンル以外からの参加も多数あってバラエティーに富んだ内容となった。アンデパンダンな感じとしてネパールの小学生が参加してくれたのはうれしかった。アジアはメールアート・ネットワークの弱い地域ではあるが、韓国からは複数のアーティストに参加いただけた。視覚詩分野からはドイツのペーター・デンカー、ゲアヒルテ・エベル、ハンス・ブログやオーストリアのヨゼフ・リンシンガー、フランスのジュリアン・ブレーヌ、アメリカのアンドリュー・トペル、金澤一志さんなど多数の参加があった。  さて、BankART Studioでの実際の展示である。円形にビニールのカーテン状のハガキいれが天井から吊るされた。カーテンの下部はグランドレベルよりも高い位置で平行の美しい円形を描いており、観客が内部を歩くと足だけが見られるような展示である。この円筒形の外には土岐さんの週刊ときたまハガキが差し込まれた。内部はメールアートコラボレーションの展示である。できる限り恣意性を排除するため、到着順に並べることにした。すると国も年齢も職業も感性も違う方どうしが隣り合うことになる。また、面白いことに全く違う国の感性の異なりそうな、センスも違いそうな二人が同じような解釈と表現を行っていたりするのだ。思わず笑ってしまう。たとえば、言葉どうしを線でつないで関係づけてゆく絵画を制作した何人かがいた。国籍も、おそらく年齢も、普段の表現も全く違うだろう何人かが似たような方法でコラボレーション作品を仕上げたのだ。不思議な感じがした。オープンした最初の土曜日である五月八日、会場においてメールアートについてのトークショウを行った。そこにベテラン・メールアーティストの幸円良介さんや松橋英一さんが駆けつけてくれた。視覚詩の菊池肇さん、人形作家の井桁裕子さん、モノクロの写真プリントにピンスクラッチをするアーティスト井村一巴さん、一筆描きの超絶技巧を見せる小川敦生さん、ブログで知り合った半田清さん、映像作家の田村洋さんなど多くの方が来てくれた。また土岐さんは期間中にユーチューブでゲストとのトークを生中継したり、他のアーティストとのコラボレーション・パフォーマンスに参加したり、会場でコンサートを行いとアクティブに動いた。結果、約三週間の会期に千人ほどの来場者を迎えた。会場に設置されたTVでは多くのonときたま参加者に混ざってダダカンの雄姿も上映された。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。