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「未来」に向けてのメールアート(4) [メールアート]

こうしたオリジナル作品たちが無償で送られてくるのだ。刺激的な出来事ではある。これら届いた作品は企画者へのプレゼントでもある。このボランティアのような、ギフトのような、直接に心を届けるようなアートのありようはキリギリスを訪れた多くの方に暖かい思いを伝えることができたようであった。また、表現的にもきわめてレベルの高いものもあり、日本ではほとんど展示されてこなかったメールアートのありように驚きを感じられたようだった。

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展示の様子<写真は松田未希さん撮影のもの>

メールアートが垣間見せた「未来」のさまざまな可能性を次につなげる責任が我々にはある。それは異質な存在を嫌わず、考えが違うからこそ尊重しあうところから始まるのだと思う。そして、その考え方こそがメールアートの本質なのだと思っている。

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「未来」に向けてのメールアート(3) [メールアート]

私は大阪にいたので、直に感じることはできなかったが、藤沢のアトリエ・キリギリスには着実に「未来」に関してのメールアートが届き始めた。そこには様々な未来への思いやイメージが込められていた。そしてすべてが郵便というシステムによってメールボックスに直接に届くのであった。もちろん封筒に入ったものばかりではない。下の写真のように紙飛行機のままに届いたメールアートもあった。また右の封筒は中に何も入ってはいない。封筒自体が作品なのであって、中身はないのだ。

飛行機型.jpg中身のない封筒.jpg

こうした作品が連日届き、松田さんはブログを特別に立ち上げて、順に紹介していった。実はメールアートを実際にやってみると、その整理や保管などに苦労することになる。それは実作をしなくとも、展覧会を企画した場合も同様で、メールアートを送ってくれた方の住所や名前、さまざまな形状や素材の作品自体、そもそも封入されているモノのうち、どれが作品かの判断、それを整理しての保管など事務的な整理能力が求められることになる。大変なご苦労をかけてしまった。世界から送られた「未来」は130点を超えた。

 展覧会は6月16日にスタート、7月1日までの日程で開催された。初日はメールアートに関するトーク。今回のお題である「THE FUTURE」以外のメールアートに関する資料として私がもっているファイルの1/5くらいを持ち込んで閲覧できるようにもした。その資料を見ていただきながらメールアートの歴史、方法論などを解説した。前日まで大阪にいて実際の展示は当日初めて見るという状況であったので、「未来」メールアートについては私自身が発見の連続であった。解説しながら会場の作品を見て歩けば、もちろんご存知の大御所の作品もあれば、未知の作家の作品にも出会う。未来の解釈も様々であるし、使っている技法も色彩もさまざまで楽しい。あっという間に時間が経っていった。なかには連作で日をおって送付し、したがい毎日次の作品が届くようにした作品があった。どうした訳かその届く順番が狂ったりもしたようだ。箱のような作品もあり、作品が描いてあり、そこに直接にテープが貼ってある。メールアートになれていれば、そのテープにカッターの刃を容易にいれることができるが、慣れていないので、かなり抵抗があったとの話を松田さんより聞いた。そうだろう、作品の真ん中を切ることになるのだから。そうした違和感を含めてメールアートなのである。中からは別のイメージが出現する。

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アメリカのMike Dyarからのメールアート
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「未来」に向けてのメールアート(2) [メールアート]

以下は実際に世界各地に送ったメッセージ、プロジェクト・インビテーションである。

<Mail Art Project> “The Future” at Atelier Kirigiris

We were attacked by a Inexperience earthquake disaster, tsunami and radioactive contamination in 2011. And it is still alive under the influence. However, we and our children have "The Future". Please show your “The Future” for us. 

So, We decide theme of new mail art is “The Future”. 

Although size and technique are free, please send them by snail mail with your name, address, e-mail address, small photo and simplified personal history(CV).
Exhibition will be held at Atelier Kirigiris in June 2012. 

An on-line catalog in blog form or album exhibition by facebook is carried out.
A work you sent to us is not returned. 
Moreover, if you can cooperate, can you donate sheets of stamp for sale?
I hope to be made to a part of exhibition expense in a gallery. 
If the price in the case of selling was decided, please let me know. 
Please think that a theme is a curator’s recommend theme. So, you can send works by free theme. For example, “Mail Art is pleasant for me” etc. Enjoy freely. 

THEME:THE FUTURE
SIZE and TECHNIQUE:FREE
DEADLINE:15th May 2012

SEND TO: Atelier Kirigiris
Co-planner: Keiichi Nakamura

世界各地のメールアーティストはこれに敏感に反応した。さっそく順調に作品が届き始めたのだ。ところがである、私が仕事の都合で4月から1年間の間、大阪に住むことになってしまった。共同で進めるといいながら、松田さんに多くの負担がいってしまうことになった。申し訳なかったと思っている。メールアート展はふつう作品の販売は行わない。無償で作品を提供するかわり、それを販売しないことが暗黙のルールになっているのだ。しかし、ギャラリーでの企画展で行う展覧会なので特別に断りをいれてオリジナルの切手シートを寄付いただき、その分に限り販売させてほしい旨のお願いをした。これにも何人かのメールアーティストが反応、レベルの高いオリジナルのアーティスト・スタンプシートを送ってくれた。ありがたい話であった。

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ドイツのユルゲン・オルブリッヒの切手シート作品

上の切手シートはドイツのユルゲン・オルブリッヒの作品であるが、彼は2012年2月4日から5月6日まで東京都現代美術館で開催された「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」展の際に靉嘔に呼ばれて来日、都現美でパフォーマンスを行ったが、この際に切手シートを持参していただいたのだった。ユルゲンは2006年に福井県立美術館で行われた靉嘔展の際にもフルクサスのエメット・ウィリアムスの代役として来日し、フルクサス・コンサートの一員としてパフォーマンスを行っていた。エメットは強く来日を希望し、福井で靉嘔と会うのを楽しみにしていたが、体調を崩して果たせず、その後亡くなってしまった。ユルゲンには申し訳ないが、エメットには来日してほしかった。
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「未来」に向けてのメールアート(1) [メールアート]

 2011年の秋、美術家の小川敦生さんから一通のメールが届いた。「本ということ」というタイトルの展覧会の企画が藤沢のギャラリーで開催する予定で進んでおり、制作期間はあまりないけれど参加しませんか、とのことであった。会場の様子もわからないので、まずは見せていただこうということにした。そのときに伺ったのがアトリエ・キリギリスとの初対面であった。藤沢駅から徒歩で5分くらい。庭のついた二階建ての建物がそこにはあった。壁にはツタがはっていた。その日は、工房リビングストンさんの展覧会が開催されており、時間の経過を身にまとった壁面や調度と陶器とのバランスに息を呑んだのであった。奥には「レントゲン室」の表示がされている白い部屋もある。庭側の自然光が差し込む部屋は柔らかい光線に包まれていた。なんという居心地の良い空間なのかと思った。この時、小川さんにオーナーの松田未希さんとブックショップ・カスパールの青木真緒さんを紹介された。キリギリスのたたずまいをみて、ぜひ参加したいと思った。ただし、新作を準備する時間はあまりなかった。場所のもつ「空気」にインスパイヤされて1か月くらいの制作期間をフルに使って新作のアーティストブックやブックオブジェを完成させ、旧作とあわせて納品することができた。キリギリスでは展示をすべて松田さんが行う。私の本たちは幸運にも最初に訪れた際に「気持ちの良い」部屋だと感じた自然光が差し込む柔らかい光線に包まれる部屋に展示された。この展示期間にメールアートについて松田さんと話した。松田さんはメールアートのオープンなシステムに共感し、ぜひ展覧会をやってみたいとの話をいただくことになった。2012年になり、具体的なプランを練っていった。

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「本ということ」展での展示風景。中央ケース内は内田紫陽子さんの作品。

 まずは展覧会の時期、これは2012年6月ごろをめどにやろうということになった。これを前提に考えると展示の準備もあるのでゴールデンウィークあけの5月15日に締切(デッドライン)を設定せざるをえないとの判断をした。となると、実はあまり募集までの作業はぐずぐずする余裕がないと気がつき、急いでテーマを決めることにした。もちろん、何もテーマを設定しない募集の仕方もある。しかし話し合いの結果、サイズや素材、技法を自由にするかわりにテーマを設定することにした。決めたテーマは「未来」。松田さんのアイディアである。3.11を経験した我々、そして多くの子供たちにむけてメールアートという手段を通じて新たな「未来」を見せてほしいと願ったのだ。
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「あなたへ あなたと」――YOU project(4) [メールアート]

2月27日から3月24日渋谷の公園通りにおいてフラッグによる展示。ハガキをフラッグにプリントし屋外展示。上を見上げるとYOUプロジェクトのハガキが翻っていたのだった。

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公園通りフラッグ(撮影:佐藤隆俊さん)

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渋谷パルコ前のテント

3月10日11日の両日、つまり震災から丸一年を迎える日に渋谷パルコ前と東急ハンズの前にはったテントでファイルにいれたハガキを見てもらうという形での展示を行った。
    
6月3日、第5回江東区環境フェアにて展示。そしてYOUプロジェクトとして最後の展示となった福島現代美術ビエンナーレでの展示が8月11日から9月23日の日程で行われた。場所は須賀川市にある福島空港のビル内部。写真にあるような造作をつくり自立させ見てもらった。

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福島現代美術ビエンナーレでの展示の様子

その後もハガキは届き、結局1833枚のハガキがホームページに記録された。最後のハガキはイタリアからのものだった。被災地での展示は実際のところ福島県での2回の展示にとどまった。しかし、1800枚という参加規模、ロングランでプロジェクトを継続できたことなどから多くの方に地震被災の事実を忘れないための一つのプロセスになったのではないかと考える。復興にはまだまだ時間が必要であろう。そして、われわれはけっして忘れてはいけないことを抱えてしまったのだ。
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「あなたへ あなたと」――YOU project(3) [メールアート]

到着したハガキが100枚を超えた3月末には東京新聞に記事としてとりあげられることになった。

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スウェーデンのKIRA MATUSTIKさん 

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イタリアのGUIDO CAPUNOさん

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井桁裕子さん

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アメリカのTHOM COURSELLEさん

その後も続々とハガキは届き続ける。そして、ニューヨークの154番小学校の生徒140人からのハガキが届く。日本人の父兄がYOUプロジェクトのことをインターネットによって知り、学校全体に展開して参加した生徒たちのハガキを送ってきたのであった。

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ニューヨーク市立154番小学校の生徒たちからのハガキ


日々届くハガキに励まされながらプロジェクトを続けた。そして展覧会を開催していった。また展覧会の最中にハガキをもって帰り郵送してくれるという形でも参加者は増えていった。4月20日から25日まで横浜のギャラリーナナにおいて2回目の展覧会を開催した。3回目は5月、再び「めぐり」で「増えてゆくハガキ展」として開催した。4回目は5月11日から31日まで恵比寿のスペースにて開催した。そして5月21日には500枚突破記念のパーティーを恵比寿でおこなっている。6月11日杉並区の高井戸小学校での展示、7月5日から17日には横浜のフォーラム南太田のギャラリーで展示。7月17日には現地で「メールアートを作ろう」というワークショップも行った。7月23日板橋区立 小茂根福祉園にて800枚のハガキを展示した。8月1日から19日には「めぐり」に戻り「1000枚になりました」という報告展を行っている。10月13日から16日横浜のフォーラム南太田において「あなたへ あなたと」展を開催、16日に土岐さんと「ちくわぶ」によるジョイントコンサートが行われた。このコンサートの中で届いたハガキを読み上げるパフォーマンスが土岐さんによって演じられた。また、作曲家である塩見允枝子さんが譜面を送ってくれた鎮魂曲を実際に演奏、その録音を皆さんに披露した。10月8日から10日まで開催された恵比寿文化祭に参加、恵比寿ガーデンプレイスタワーの1Fと38Fにハガキを展示した。この段階ですでにハガキは1000枚をはるかに超えており、展示も圧巻であった。期間中、38Fにおいてワークショップを実施、その場でハガキにコラボレートできるようにした。恵比寿という場所柄、海外からのお客様も多く、興味をもってご覧いただき、その場でプロジェクトにも参加された。展示期間中に「1000枚集まったよパーティー」を開催した。11月5日には杉並区松ノ木中学で展示を行った。11月13日には福島県いわき市小名浜地区復興支援ボランティアセンター、センター長の吉田恵美子さんに誘っていただき、新しくオープンする小名浜の交流サロンでの展示が実現した。この段階では30か国、1300枚以上のハガキが届いていた。小名浜は線量こそ低いものの、海の汚染により漁にでることができず、まだ川には垂直に沈んだ船が放置されていた。海岸部にある倉庫や水産加工場は津波にすべて破壊されていた。吉田さんに案内いただいた現場は強く印象に残った。被災から8か月が経過していたが、事態の好転からは程遠く、私に声を気軽にかけてくるのは東京などから来ているボランティアたちだった。それだけ受けた傷が深かったのだと感じた。11月20日には静岡県駿東郡清水町での第1回世界なかよしフェアに参加。スライド映像による展示とした。12月12日には墨田区立立花中学でのワークショップを開催。生徒に参加してもらった。2012年1月8日江東区にある私立中村中学校で展示。1月18日、墨田区の立花中学に岩手県から6人の中学校の先生が来られ、玄関に展示したハガキを見てもらった。2月1日から29日まで新宿のベルクの壁面に展示。多くの方の目にふれた。
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「あなたへ あなたと」――YOU project(2) [メールアート]

以下は実際にホームページに掲載した告知の内容である。

3月11日に日本を襲った巨大地震。その被害の大きさに、ただただ驚き,悲しみ、祈るしかない気持ちになりました。でも何かしたい。いえ、何かしていないと落ち着かないと言った方がいいかも知れません。東京に住んでいる私たちが被災者の方たちのために、何かできることはないかと考え、「YOUプロジェクト」をはじめます。
「YOUプロジェクト」の「YOU=ゆう」は,「友」「有」「結」「郵」そして「あなた」の意味です。今度の地震で大きな被害に会ったあなた、家族を友人を知人を失われたあなた……地震に関わり悲しみを背負ったすべてのあなた。あなたへ、私たち一人ひとりからのメッセージを世界中から集めます。
「YOUプロジェクト」はメールアートのプロジェクトです。「あなたへ あなたと」と書かれたハガキに、コトバのメッセージやイラストや写真をつけ加え、事務局まで郵送してもらいます。

このメッセージに対する反応はすぐに届く。ホームページに掲載された最初のハガキは3月18日に掲載作業がされている。この日に届いたのか前日なのか、いずれにせよホームページを立ち上げた直後の反応であったことは間違いない。
          
さすがに海外からではなく、国内からだった。それでも3月23日にはドイツのSusanna Laknerさんからハガキが届いているので、ホームページにアップと同時に制作し郵送してきたものと思われる。これは改めて考えてみると驚くべきことだと思う。地震発生は11日、企画をたてたのが15日、ホームページのアップは18日。スザンナさんは直後に制作、即座に郵送いただいたに違いない。この反応こそはメールアートの真髄、とはいいながら驚くスピードであった。

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最初に届いた半田清さんのハガキ

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Susanna Laknerさんのハガキ

ハガキが届き始めてから約1週間、3月26日には上野にあった「めぐり」にて第1回の展覧会を行っている。壁面に展示用のハガキポケットをつるし、すでに届いていた53通を展示、日々届くハガキを差してゆくというスタイル。「めぐり」は発起人の一人、おかどめぐみこさんの店舗である。この時点で海外からはスペイン、ドイツ、ベルギー、カナダ、フランス、マケドニア共和国と6か国から参加があった。

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めぐり展示1.jpg

めぐりでの展示
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「あなたへ あなたと」――YOU project(1) [メールアート]

 その日は突然に来た。数日前から予感はあった。ハワイのキラウェア火山の噴火があって危険だと思った。しかし、まさか東北を震源とする巨大地震が起きようとは予測できていなかった。漠然と東京に大きな地震があるかもと思っていたのだった。その時、私は新宿のビルの一室にいて仕事をしていた。足の裏をちょっとたたくような震動のような、たとえると岩が割れるような微かな感触が伝わってきた。私は立ち上がり、皆が地震だと気付く前に「落ち着いて行動するんだよ」と叫んでいた。微かな震動は大きな縦揺れに変わり、やがて横揺れが加わった。かつて経験したことがないような揺れであり、時間も長かった。いつまでたっても終わらなかった。壁に亀裂ができて大きく口をあけた。やがて無限に続くかと思われた激しい揺れも収まった。この地震、多くの海外からの旅行客が動画に撮影、その映像をフェイスブックなどSNSを経由して世界中に配信したという特異な現象を生んだのだった。インターネットの中で配信された映像のなかの新宿高層ビル群は激しく揺れ、ビル同士がぶつかりそうになっていた。こうした映像をみた海外のメールアーティストから一斉に安否を問い合わせてきたのだった。今考えれば当たり前のことなのだが、妻の実家のある北海道・森町への電話連絡よりもアルゼンチンの友人へのフェイスブックを経由しての「私は大丈夫」のメッセージのほうが順調に届けられたのだった。その後の津波の映像も、福島第一原発の爆発の危機も海外から私のもとへSNS経由でリアルに届けられたのだった。

 3月11日は金曜日であった。土曜日、日曜日と都市全体が沈んで、うちひしがれていた。物理的にも照明を落としていたので暗く感じた。津波が襲った東北地方の海岸部は火に包まれていたり、あとかたもなく町が消えたりとあまりに大きな被害にあっていた。言葉を失う光景であった。そんな中、「ときたま」アートの土岐小百合さんからメールが届いた。「大きな被害でじっとしていられない。なにもできないのかもしれないが、何かしないとおかしくなってしまいそう。なにかできないかなあ」ということだった。このメールはおかどめぐみこさん、平戸加代さんにも送られていた。結局この4人でなにか我々の手作りの範囲でできることをやろうということになり、3月15日の夜に新宿駅西口地下の喫茶店に集った。そこくらいしか夜は営業している店がほとんどなかった。4人は暗い町、余震の続く環境に少し興奮したまま、「何かをする」を形にしてゆく議論をした。被災した地域の人たちと気持ちを共有したい、なんとか応援メッセージを届けたい、できれば世界中の人たちからのメッセージを届けたいという点で我々は合意した。それをメールアート・ネットワークを使って形にしよう。その後の展示などは別に考えようと結論した。そこまでの議論が済むとその後の行動は早かった。すぐにこのプロジェクトを「YOUプロジェクト」と命名し、ハガキに「あなたへ あなたと」と印刷したものにコラボレートしてもらうことにした。海外の方々にも参加いただくために説明文を英語へと翻訳、インターネット内にホームページを立ち上げて、そこでプロジェクトの告知を行い、あわせて届いたハガキを紹介するという展開方法を決めた。横浜バンクアートでの「ときたまメールアート」は印刷したハガキを海外のメールアーティストに郵送したが、今回はホームページにアクセスしてもらい、データから各自ハガキに印刷してもらい、コラボレートしてもらう形式とした。
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ときたまメールアート(4) [メールアート]

 五月三○日、ついに最終日となった。クロージングイベント会場では音楽にあわせて電子的な花火がうちあげられてゆく。上のフロアで大野慶人さんのダンスイベントがあったようで、慶人さんがいた。思わずジョン・ソルトさんからのハガキを見せたくなってカーテンから外して見ていただいた。そこには大野一雄さんの舞踏している写真がコラージュされていたのであった。ジョン・ソルトさんは大野一雄さんをアメリカに紹介した功績者であり、細江英公さんが大野一雄を撮影した写真集『胡蝶の夢』の展覧会をロス・アンゼルスの美術館で企画提案、実現したりしている。二○一○年秋、ジョンさんは世田谷美術館での「橋本平八と北園克衛展」のために来日、土岐さんと会っていただけた。慶人さんにハガキを見ていただき、しばらくして一雄さんの訃報が届いた。私には直後という印象があり、その偶然に驚いた。ジョン・ソルトさんが十月二四日に田口哲也さんとともに行った講演会には邦楽の西松布咏さんと大野慶人さんとのコラボレーション公演もあった。  ジョンさんが企画し、私や田村洋さんがプロデュースとして制作にかかわった西松さんのDVD「儚」でのコラボレーションの完成形を見たように思った。世田谷美術館のこのイベントには詩人の藤富保男さんも来られたが、五月の横浜には参加いただけなかったけれど、十一月に予定しているときたまメールアート展覧会には藤富さんも参加いただくことになった。メールアートはネットワーキング・アートでもあるが、ときたまメールアートもまさに「つながり」の連鎖を形成しているようだ。ときたまメールアートは今も拡大を続けており、新たな連鎖を生んでいる。その新しい出会いが楽しみである。
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ときたまメールアート(3) [メールアート]

 土岐さんのメールボックスに最初に届いたのはダダカンこと糸井貫二さんからのコラボハガキだった。これには驚いたようだ。大阪万博でのダダカンの活躍は多くの方の知るところであり、そのダダカンからの返信がまっさきに届いたのだ。まるで万博で裸の姿で追いかける警備員をひきつれて走ったように先頭をきって走ってきたのである。さすがは糸井さん、「よっ、ダダカン!」てな具合である。土岐さんはダダカンと連絡をとり、なんとonときたまのビデオ映像を撮影してきたのであった。動いているダダカンがテレビの中にいた。八十九歳の逆立ち姿がそこにはあった。肉体がラジカルだった。  その後も続々とハガキは届いた。〆切とした三月末までには三○ヶ国から三二一人の参加があった。これはどうしてたいしたものである。日本国内で開催されたメールアート展として最大級の規模になったのではないかと思う。イタリアのルッジェロ・マッジ、エミリオ・モランディ、スペインのアントニ・ミロ、イギリスのアラン・ターナー、オランダのコ・デ・ヨンク、ベルギーのリュック・フィーレンス、アメリカのジョン・ヘルド・ジュニア、ジョン・ベネット、ウルグアイのクレメンテ・パディン、オーストラリアのデビット・デラフィオーラなどベテラン勢も揃った。カッセル・ドキュメンタ参加作家のユルゲン・オルブリッヒ(ドイツ)やフルクサスのメンバーの作曲家・塩見允枝子さんにも参加いただいた。日本からの参加者はメールアートジャンル以外からの参加も多数あってバラエティーに富んだ内容となった。アンデパンダンな感じとしてネパールの小学生が参加してくれたのはうれしかった。アジアはメールアート・ネットワークの弱い地域ではあるが、韓国からは複数のアーティストに参加いただけた。視覚詩分野からはドイツのペーター・デンカー、ゲアヒルテ・エベル、ハンス・ブログやオーストリアのヨゼフ・リンシンガー、フランスのジュリアン・ブレーヌ、アメリカのアンドリュー・トペル、金澤一志さんなど多数の参加があった。  さて、BankART Studioでの実際の展示である。円形にビニールのカーテン状のハガキいれが天井から吊るされた。カーテンの下部はグランドレベルよりも高い位置で平行の美しい円形を描いており、観客が内部を歩くと足だけが見られるような展示である。この円筒形の外には土岐さんの週刊ときたまハガキが差し込まれた。内部はメールアートコラボレーションの展示である。できる限り恣意性を排除するため、到着順に並べることにした。すると国も年齢も職業も感性も違う方どうしが隣り合うことになる。また、面白いことに全く違う国の感性の異なりそうな、センスも違いそうな二人が同じような解釈と表現を行っていたりするのだ。思わず笑ってしまう。たとえば、言葉どうしを線でつないで関係づけてゆく絵画を制作した何人かがいた。国籍も、おそらく年齢も、普段の表現も全く違うだろう何人かが似たような方法でコラボレーション作品を仕上げたのだ。不思議な感じがした。オープンした最初の土曜日である五月八日、会場においてメールアートについてのトークショウを行った。そこにベテラン・メールアーティストの幸円良介さんや松橋英一さんが駆けつけてくれた。視覚詩の菊池肇さん、人形作家の井桁裕子さん、モノクロの写真プリントにピンスクラッチをするアーティスト井村一巴さん、一筆描きの超絶技巧を見せる小川敦生さん、ブログで知り合った半田清さん、映像作家の田村洋さんなど多くの方が来てくれた。また土岐さんは期間中にユーチューブでゲストとのトークを生中継したり、他のアーティストとのコラボレーション・パフォーマンスに参加したり、会場でコンサートを行いとアクティブに動いた。結果、約三週間の会期に千人ほどの来場者を迎えた。会場に設置されたTVでは多くのonときたま参加者に混ざってダダカンの雄姿も上映された。
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