「第七官界彷徨」漫想(1) [尾崎翠]

はじめて読んだ「第七官界彷徨」

 尾崎翠の「第七官界彷徨」を読んだのは大学生のとき、したがい札幌においてであった。当時の私は、美術書は丸善か富貴堂、文学はリーブルなにわで探すことが多かったので、『第七官界彷徨』は、おそらくリーブルなにわで購入したのだと思う。創樹社の1980年刊行の単行本である。野中ユリの装丁も気に入って購入した。この段階では、私は尾崎翠について何も知らなかった。なので、まさか大正末から昭和初期にかけての作家活動しかない作家だとは思わなかったのであった。たしかに細部を検討すれば同時代の作家だとは思わないだろう。しかし、まさか昭和初期の作家の小説の中で女性を「女の子」と表記したり、セリフの中で「女の子」などの表現が登場するとは思っていなかったのであった。当時の私の印象は「少女マンガのようだ」だった。だって、「女の子」の小野町子は詩人をめざしていて、二人の兄と声楽の勉強をしようとしている従兄との四人の同居、抽象的な設定の中で現実感のない失恋をしてゆくのだから。この小説は何だ・・・と思った。あげくにコケの恋に関する研究まで登場する始末。この『第七官界彷徨』には尾崎翠の後半期の代表的な作品がまとめられていて、私の好きな「木犀」や「歩行」「アップルパイの午後」なども収録されている。そして、こうした「第七官界彷徨」の周辺の作品を読んでゆくことで、尾崎翠の作品世界を次第に理解できてきたのだった。
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コメント 2

雉虎堂

第七官界彷徨、たしかに少女まんがっぽいです
どういうところがそう感じさせるんでしょうね

精神世界に深くひきこもりながら
好奇心と想像力を食指に世界を手探りしている感じ?
自分の肉体や存在をもてあましている感じでしょうか?
by 雉虎堂 (2010-07-19 06:55) 

ナカムラ

雉虎堂様:コメントありがとうございます。人物設定の抽象性や本当は深い世界をもっているのに、それを軽いタッチで描いてゆくところなどでしょうか。

自分以外のものが肉体的ではないところもでしょうか。
by ナカムラ (2010-07-19 14:02) 

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