「第七官界彷徨」漫想(2) [尾崎翠]

雑誌『新興藝術研究』

 「第七官界彷徨」は、はじめ雑誌『文學党員』1931(昭和6)年2月号に掲載された。ただし、これは全編掲載ではなく、全体の七分の四であって、「前編」と表記されていた。そして、創樹社版に掲載された「第七官界彷徨」は同じ1931(昭和6)年6月に発行された雑誌『新興藝術研究』第二輯に掲載されたものをもとにしている。『新興藝術研究』は尾崎翠が住んでいた上落合の家にほど近い場所に住居を構えていた美術評論家の板垣鷹穂が編集主幹を務めていた雑誌で、第一輯のテーマは「日本プロレタリア藝術の現状」であった。そして「第七官界彷徨」が全編掲載された第二輯のテーマは「主として藝術の形式に關する特輯」である。この号にも小林多喜二が執筆している。他にも阿部知二、平林たい子、久野豊彦、津田清楓、林芙美子などが執筆している。極めて正方形に近い形をした318ページに及ぶ分厚い雑誌である。その雑誌独特の質感を感じながら「第七官界彷徨」を読むとき、創樹社の単行本で読んだときと異なる感覚を感じた。本は意味としての内容ばかりではなく、まさに視覚の「見た目」、触覚としての「手触り」、臭覚としての紙がもっている「匂い」などによって、私の五官は刺激されたのであろう。板垣鷹穂の妻の直子は文藝評論家であり、尾崎と同様に『女人藝術』に執筆しており、尾崎を評価していた一人であった。尾崎はよく板垣の家を訪ねていたようだ。『文學党員』に発表された「第七官界彷徨」を読んだ板垣鷹穂が『新興藝術研究』第二輯に全編版として一挙掲載したのだった。
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アヨアン・イゴカー

>その雑誌独特の質感
こういう感性は大切だと思います。本そのものの持っている存在感のようなもの。
by アヨアン・イゴカー (2010-07-25 00:11) 

ナカムラ

アヨアン・イゴカー様:コメントありがとうございます。ものがもっている質感への関心はなくならないですね。アナログ人間なんでしょうか。電子書籍にはなじめません。
by ナカムラ (2010-07-28 12:03) 

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