「第七官界彷徨」漫想(3) [尾崎翠]

冒頭二行の削除

 ただし、『文學党員』掲載のものは前編であったというばかりではなく、この前編自体が『新興藝術研究』第二輯に掲載される際には一部訂正されている。たとえば冒頭であるが、『文學党員』版にあった2行が『新興藝術研究』版では削除されている。これは何故だろうか。
   
私の生涯には、ひとつの模倣が偉きい力となつてはたらいてゐはしないだろうか。

この一文、特に「ひとつの模倣」とは何のことだろうか。この文章がなぜ『新興藝術研究』版では消されたのか。後半に想定していた展開を変更したからなのか。この2行のあとには以下の文章が続く。従い、『新興藝術研究』第二輯では以下が冒頭となっている。

よほど遠い過去のこと、秋から冬にかけての短い期間を、私は、変な家庭の一員としてすごした。そして、そのあひだに私はひとつの戀をしたやうである。

『新興藝術研究』第二輯には「第七官界彷徨」の前に「第七官界彷徨の構圖その他」という7ページにわたる文章が掲載されており、そこに、この2行の削除に関しての尾崎の説明がある。引用してみよう。

劈頭の二行を削除したことは、最初の構圖の形状をまったく変形させる結果を招きました。最初の意圖では、劈頭の二行は最後の場面を仄示する役割を持った二行で、したがって當然最後にこの二行を受けた一場面があり、そして私の配列地圖は圓形を描いてぐるつと一廻りするプランだったのです。

ところが、最初の二行を削除し、最後の場面を省いたために円環としてループするプランから、ストーリーの配列を直線に延ばすことになったというのだ。

この直線を私に行はせた原因は第一に時間不足、第二にこの作の最後を理におとさせないため。

以上のように結論付けているのだが、尾崎は円環を描いてループして永遠に廻り続けるアイディアに未練を感じていたようで、適当な時間を得て、この物語をふたたび圓形に戻す加筆を行うかもしれません、と結んでいる。

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