誰のものでもないアート(2) メールアートギャラリー<エターナル・ネットワーク> [メールアート]

2.メールアートと知的所有権

 メールアートは、本来的に個人の著作権を放棄したアート活動であるが、エターナル・ネットワークでは、それが更に深化している。普通のメールアートの場合、どう使ってもいいよと自分の作品を送る。その作品にはサインが入っていたりする。まだ作品の所有を明らかにしようとしている。しかし、エターナル・ネットワークの場合、そうした作品所有の概念はない。現に、誰がどのパートをどうやって付け加えたのかもわからなくなっている。名前や住所を書く欄があると書いたが、これはコピーを送ってもらう宛先を記入したに過ぎない。思えば、19世紀から20世紀にかけての資本主義社会の世界は、特許をはじめとする知的所有権や知的財産が私有化され、企業化され、売買された時代であった。特に現代では、音楽や映像、映画、コンピューターソフトウェアにおいてそれは顕著である。しかし、あらゆる芸術、創作活動において、過去の偉大な制作者の遺産なくして自己の作品が成立しない事は制作者自身がよく知っている。良い作品の影響の重要性は誰もが知るところであろう(古い作品はパブリックなものとして扱われているし)。この21世紀、我々の著作権や知的所有権、知的生産物への意識はどう変化してゆくのだろうか、私には非常に楽しみである。

Sheila Sporer.jpg
アメリカのSheila Sporerからのメールアート

3.eメール・エターナル・ネットワーク

 東京・高輪のギャラリー・オキュルスにおいて日本とフランス両国のビジュアル・ポエトリーを集めた展覧会である「ヴィジュアル ポエトリー ビエンナーレ 日本・フランス」が以前に開催された。この展覧会のオープニングの際に初めて会った、出品者である近藤修一郎さんとヤリタミサコさん、私との間でメールアートの話になった。近藤さんはメールアートに関心があるとの事。ならば、何かのプロジェクトの際には、また各地のメールアーティストのプロジェクトへの招待があった場合には案内をする、と約束した。その後、近藤さんからe-mailでヴィジュアル・ポエトリー作品を送ってもらった。それに私がコラボレートし、その結果を世界中のメールアーティストやヴィジュアル・ポエトリーの作者に私からe-mailした。何もコメントしなくとも、私からのe-mailを受け取った多くのアーティストは、この私の行為がe-mailを使った、そしてヴィジュアル・ポエトリー形式によるエターナル・ネットワークであると理解してくれると思っていた。そして彼らなりの判断により、レスポンスをかえしてきてくれるものと期待したのであった。このコラボレーションe-mailヴィジュアル・ポエトリー・プロジェクトには多くのアーティストや詩人が参加した。また、参加したアーティストの居住する国も多岐にわたった。変化してゆくヴィジュアル・ポエトリーの様子は図版を確認いただきたいが、参加者とその居住する国は以下のようになった。

  日本      近藤修一郎、ヤリタミサコ、中村惠一   
  アメリカ    ジョン・ソルト、ジョン・ベネット
  ウルグアイ  クレメンテ・パディン
  アルゼンチン ボルティス・アルゼンティナ、ジャン・カルロス・ロメロ
           ヒルダ・パス、アリシア・ザラト
  カナダ     スーザン・ゴールド・スミス、ジャス・フェルター
  イタリア    アルベルト・ソルディ
  ドイツ     ゲルヒルト・エーベル
  デンマーク  ルディガー・アクセル・ウェストファル

8カ国、15名が直接参加、その他各国のアーティストからの反応を感想文や彼らの展覧会やパフォーマンスに関する情報という形でもらった。上記の参加者は、開始直後に私あてに直接届いたレスポンスによっているので、私が知らない所で、何らかの形でこのコラボレーション・ヴィジュアル・ポエトリーが変化、蛇行し、複雑・多岐な様相を呈している可能性もある。

近藤.jpg

中村+近藤.jpg

近藤リバイス.jpg
近藤さん単独、近藤+中村、近藤+中村+近藤の3つの詩を配信した。

スーザン・スミス.jpg
カナダのSusan Gold Smithがコラボした詩

スミス+近藤.jpg

ヤリタミサコ.jpg

ソルトさん.jpg

エーベル.jpg
ドイツのGerhild Ebelからの詩

中村+エーベル.jpg
エーベルさんの詩に中村が加えた詩
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コメント 6

SILENT

ある著名な画家があとから加筆され
其の加筆部分が有名な画家の特徴とされた時
画家と加筆した人間の罪はどうなるのでしょうか
個人とは何か 考えさせられますね
工房の作品や
著名なブランド
例えば
ChristianDiorなんて方も存命でなく違うデザイナーが
デザインしてるわけで、、、、
無銘とサイン
判らなくなりました
意味不明ですみません!
by SILENT (2009-07-07 18:52) 

ナカムラ

SILENT様:元・具体派の嶋本昭三さんが雪舟に筆を加えるという作品を制作したことがあると聞いたことがあります。この場合、嶋本さんの行為は、アート的な行為なのでしょうか、それとも破壊的な行為なのでしょうか、私にもわかりません。サインは責任を表現する行為とは思いますが、たとえば版画で考えると、鉛筆でエディションとサインをいれるようになったのは近代以降であり、結構最近のこと。それまでは無名といえば無名。オリジナルとは何か?という問題をはらんでいます。おそらくは、商品として売買の対象とするためもあって、個人特定を図ったように思います。メールアーティストの中にはそれを否定しようとする方もいます。コメントありがとうございました。
by ナカムラ (2009-07-07 19:46) 

やおかずみ

なるほど・・・こんなふうにして作品が出来上がって
いくのですね。よくわかりました。
by やおかずみ (2009-07-08 11:07) 

ナカムラ

やおかずみ様:コメントありがとうございました。
by ナカムラ (2009-07-08 11:25) 

とらさん

こんにちは
何か 不思議な世界ですね。
知的所有権や知的財産は難しいことですね。
by とらさん (2009-07-08 11:45) 

ナカムラ

とらさん様:コメントありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。
by ナカムラ (2009-07-08 11:55) 

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