どんな未来が見られるか・・・・・・・メールアート展「未来」 [メールアート]

私が企画協力しているメールアート展「未来」が神奈川県藤沢市のアトリエ・キリギリスで始まります。未来をテーマに100名以上のアーティストから作品が郵送されてきました。どんな未来が見られるのか楽しみです。ぜひ実際に現物をご覧ください。会場には私が過去に受け取ったメールアート作品を閲覧できるコーナーもできる予定です。世界では熱心なコレクターがいる切手アート作品。何人かのアーティストの切手作品(アーティスト・スタンプ)を実際に所有して楽しんでいただくために格安で提供することにしました。あわせてお楽しみを。(切手作品以外は販売しません)

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場所:アトリエ・キリギリス
      藤沢氏藤沢536-2  電話:0466-53-3088

会期:6月16日(土)~7月1日(日) 12:00-18:00 月曜日火曜日休み

イベント:6月16日(土)14:00- メールアートガイド
       私が会場の作品現物を使ってメールアートとは?を解説します。幅広い展開がされているメール       アートを一言で語るのは難しいですが、現物をお見せしながらわかりやすく語ってゆきます。
       参加費は500円。オリジナル・アーティストスタンプシート1枚をお持ち帰りいただきます。

未来表0.2m.jpeg


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たいせつな風景・S市点描「はじまりは平手打ち」(5) [小説]

 最近は風邪気味で調子が悪い、とシオンが咳こみながら電話してきた。かわいそうだが、簡単に変ってやることもできない。姉さんに頼んで看病をさせてもらうことにした。ふとんにくるまったシオンはなさけない表情をみせていた。病気の時は皆がそうするようにシオンも僕に甘えた。僕はできるかぎりシオンのわがままにまかせた。姉さんは気をきかせて僕たち二人にしてくれた。熱があるのでタオルを濡らして額にのせていた。顔色の悪いシオンの寝顔を見るのはつらくもあったが、僕はずっとシオンをみて過ごした。寝息がリズミカルで僕も少し眠くなった。シオンが目をさますとリンゴをむいて食べさせた。水を飲ませた。熱はまだひいていなかった。このときにはシオンの本当の病名は姉さんだけが知っていたのだった。もちろん今になればということであるが。

 シオンはその後徐々に衰弱していった。そしてS市の北側にある大きな総合病院に入院することになった。シオンはまだ風邪をひどくこじらせたと思っているようだった。さすがに僕もおかしいと思い始め、姉さんにきいた。姉さんは顔を曇らせ困った表情をみせていた。「あなたには話しておかないといけないわね。」と本当の病名を話してくれた。僕はショックを受けた。顔いろが蒼白になったのだろう、姉さんは僕を軽く抱きしめていてくれた。しばらくして涙が流れてきた。これじゃ子供だと思いながらも、抱かれるままにした。涙もふかなかった。「今は思う存分にシオンのために泣いて。でも、シオンの前に行ったら気付かれないように演技をしてほしいの。できる・・・」と念をおされた。シオンと僕との時間は大きな鉄の扉を落とすように閉められてしまった。季節は冬を迎えていた。雪が続き、それが寝雪に変っていた。シオンは最後には小さな木箱にいれられてしまった。悔しかったし悲しかった。故郷の高台にあるシオンの家族の墓には雪解けをまって姉さんと僕とで行った。シオンの骨を納めるために。眼下に海が見えるよい場所に墓石はあった。青空が眩しかった。シオンの笑顔を思い出していた。故郷の海とこの春の青空をシオンにもう一度見せたかった。いや、僕はシオンと二人で見たかった。となりにいる姉さんの長い髪が風に揺すられ僕のほほをたたく。シオンとの出会いを不意に思い出した。そうだ、はじまりは平手打ちだったのだ。あれから1年たっていないのにシオンはいない。僕はあの時よりも大人になったのだろうか。S市に戻る車の中で運転する姉さんとシオンのことを話した。もちろん僕のしらない子供のころのシオンのことをいろいろに聞いた。「でもねえ、シオンはあなたに素晴らしい夏をもらったと話していたわ。」と涙声になった。悲しさに満ちた姉さんのことをある日のように抱きしめてあげたかったが、運転する彼女を抱きしめることはできない。まどの外の夜空には大きな丸い月が昇ってきた。S市につくまでの結構長い時間を僕たちはシオンの思い出を抱きしめながら無言ですごすだろう。そして静かに別れてゆくだろう。それぞれの眠りにつくために。そして生きてゆくために。

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たいせつな風景・S市点描「はじまりは平手打ち」(4) [小説]

 S市に遅い夏がきた。さすがに強い日差しが照る。夜は冷房はいらないが日中はそれなりに暑い。気温があがるのに比例するようにシオンと一緒に過ごす時間が長くなっていた。大学は違うけれど、僕の行きつけの喫茶店でシオンはよく待っていた。そして市営のプールに泳ぎにいった。シオンは泳ぎが得意で見事なクロールでいつまでも泳いでいた。それはとても美しく、見とれてしまうほどだった。普段はヤマネだと思ったが水の中ではイルカに変化するのだなと思った。泳いだ帰りには必ずスーパーマーケットで夕食の買物をして僕の家で二人して料理を作り一緒に食事をした。夏休みの最盛期には毎日のように二人で買い出しに行った。魚屋のおじさんは僕たちを夫婦だと思ったようで、シオンのことを「奥さん」と呼んでいた。シオンはそれも楽しんでいるようだった。花屋ではバラをよく買った。S市は乾燥しているので、バラは枯れずにドライフラワーになって二度楽しむことができた。僕たちがサンマを買ってバラを抱えて腕を組んで歩く姿はたしかに新婚の若い二人に見えただろう。それほどに僕たちは幸せだったのだろう。

 秋になって冷たい雨が続いた。夏の終わりごろに僕は故郷に帰り、両親としばらく過ごした。ときどき電話でシオンと話した。シオンは相変わらず元気だった。いつ帰るのかと何度もきかれた。泳いでいるかと聞いたが、僕がいないので泳いでいないとのことであった。電話で小さな咳をしていた。苦しそうではなかったが、少し気になる咳の仕方だった。

S市に戻ったのは木々が色づいてからで、シオンとは羊が鈴を鳴らして行進する丘で会ったのだった。羊が吐く息が白く見え、早すぎる冬がそこまで迫っている錯覚を覚えた。シオンは元気がなかった。僕のヤマネはもう冬眠を始めたのだろうかとも思った。考えてみれば僕はシオンに愛の告白を一度もしたことがなかった。ちょっと人恋しくなる秋、僕は羊をみながらシオンに初めての告白をした。「愛している」と。「今さら何を言っているの」と言われるのかと思ったけれど、シオンは真剣な目で僕を見つめていた。そして「わたしも」と言った。少し目を伏せて、シオンの体が震えていた。シオンの赤い傘に僕ははいり、傘のなかで僕たちは肩を寄せあった。シオンはとても冷たい手をしていた。冷たい秋がシオンのエネルギーを少しずつではあるが奪い取っているように思った。

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